207 『名句の所以』(著:小澤實)から

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しぐるるや駅に西口東口  安住 敦

 この駅は大きく広い。そんな駅には出口とも入口とも言わず、東西南北から人を吸い込み吐き出すパワーがある。外は雨降りだがこの駅にはあまり関係はない。時折聞こえる電車の発着を報らすマイクの声がそれぞれに聞こえるのだ。人が行き交うこの空間は何やら人恋しく寂しい活気に満ちている。私は外の雨に目をやりそれから目的の乗り場へと移動するのだ。

  


141 芭蕉を読む(芭蕉全句:小学館)

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 さしこもる葎の友かふゆなうり  芭蕉 
      むぐら

「葎の友」は、「葎の宿(貧家・草庵)の友」の意。

引き籠る庵を訪う者もなく、立ち寄る冬菜売りだけが友というべきであろうか(小学館 芭蕉全句)。

 解説のように読めるには、「葎の友」の意味と、ふゆなうりと続く意味省略の理解が必要とおもうが、感覚だけでは手に負えない。現代俳句の取り合わせの難しさに近いものを感じた。


168 定本 高浜虚子全集 第一巻『五百句』より

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君をおくつて凍ゆべく戸に彳みつ  虚子

      こご

 前書に別戀とある。恋人を送ってその別れどき戸口にたたづむのだが、寒さに凍えてゆく。たたづみつつ内心は燃え盛るのだ。凍ゆべくの破調が何とも切ない。これはもう、如何ともなし難いことである。戀の一瞬を捉えて佳什、恋ではなく戀だな。











 


ギャラリー
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