『芭蕉の風景』(下) 小澤實p340『ひととき』 ウェッジ2013/8『新芭蕉俳句大成』明治書院p242
ひとつふたつと数にも入らない命と思はないでください盆の月。と、ひとまず読んだ。
江戸深川の芭蕉庵に住まわせていた寿貞という女性の死を知りこの句が詠まれたものらしい。「な…そ」と動詞の連用形を挟み相手に懇願してその行動を制する語法が特徴的によく効いている。女性に対して婉曲に自分を軽んずるな、と言っている訳である。
しかし、この句、何だか変である。死んだ女性に自分を軽んじてはいけない、あなたは私にとってとても大切な人なのです。この盆になおさら心深く偲ばれます。とは、逝った妻、あるいは妾であった女性に掛ける言葉、心としては何を今更言っているのか、芭蕉にしてはお粗末であると私は思うが、後悔、詫び、とともに愛を告げることもありうるのかとも思い直すのである。