2022/3/14

笠寺やもらぬ崖も春の雨 芭蕉

『芭蕉の風景』() 小澤實p151『ひととき』 ウェッジ2017/3『新芭蕉俳句大成』明治書院p238

 「笠寺という寺があってその上に水も漏らさぬいわやにも春の雨が降ることだ。」と一応の句意だてをしてみる。

さて『ひととき』に読み解いて頂こう。

 この句は尾張の鳴海宿に住んでいた弟子知足が近くの笠寺に奉納するために注文され、応えたものである。

笠寺とは、真言宗天林山笠覆寺の通称、笠寺観音である。その縁起に味わいがある。荒れ果てたお堂の観音様が風雨にさらされていたところ、鳴海の長者の使用人であった娘が自分の笠を観音様に被せた。その後、都の貴族中将藤原兼平のみそめるところとなり妻となる。玉照姫と呼ばれこの夫婦は寺を再興し、笠覆寺とした。句意は「笠寺の雨のもらない窟ともいうべき堂にも、春の雨がしずかに降っている」。

 旅寝を起す花の鐘撞 知足の脇句に溢れる喜びが尊い。