2022年03月

芭蕉の風景 (23)

2022/3/24

花見にとさす船遅し柳原  芭蕉

『芭蕉の風景』(小澤實p304『ひととき』 ウェッジ2016/3『新芭蕉俳句大成』明治書院p820

この句には「柳原」という地名を巡って説が分かれている。一説は「柳原堤の末にあったことに由来する」とするもの。もう一説には「橋のたもとに柳の樹があったことに由来する」とするもの。とである。

さらに、この句には船に乗って船上で詠んだものか、藩邸で詠んだものかの説も分かれる。私にはいずれとも断じる根拠もない。ただ中七の「さす船」が竿をさす意味にはなかなか取れなかった。「花見に向かう、舳先」と解してもその速度を言うのであれば、それでも良いように思えたのである」。

芭蕉の風景 (22)

2022/3/14

笠寺やもらぬ崖も春の雨 芭蕉

『芭蕉の風景』() 小澤實p151『ひととき』 ウェッジ2017/3『新芭蕉俳句大成』明治書院p238

 「笠寺という寺があってその上に水も漏らさぬいわやにも春の雨が降ることだ。」と一応の句意だてをしてみる。

さて『ひととき』に読み解いて頂こう。

 この句は尾張の鳴海宿に住んでいた弟子知足が近くの笠寺に奉納するために注文され、応えたものである。

笠寺とは、真言宗天林山笠覆寺の通称、笠寺観音である。その縁起に味わいがある。荒れ果てたお堂の観音様が風雨にさらされていたところ、鳴海の長者の使用人であった娘が自分の笠を観音様に被せた。その後、都の貴族中将藤原兼平のみそめるところとなり妻となる。玉照姫と呼ばれこの夫婦は寺を再興し、笠覆寺とした。句意は「笠寺の雨のもらない窟ともいうべき堂にも、春の雨がしずかに降っている」。

 旅寝を起す花の鐘撞 知足の脇句に溢れる喜びが尊い。



芭蕉の風景(21)

2022/3/14

衰や歯に喰いあてし海苔の砂  芭蕉

『芭蕉の風景』() 小澤實p232『ひととき』 ウェッジ2015/3『新芭蕉俳句大成』明治書院p205


 食事中に砂を噛んだことは私にもあります。ただしそれは米、ご飯にであります。でもそのことで「衰」を感じたことはなかったですねぇ。芭蕉はその時歯に何がしかの痛みを感じたのでありましょう。そのことで身体に老衰を感じたのだと読めるのです。
いずれにしても、精米器が良くなりこのようなことはなくなりました。海苔もまた、そういうことは無くなったようです。

芭蕉の風景(20)

山は猫ねぶりていくや雪のひま  芭蕉
『芭蕉の風景』(小澤實p24『ひととき』 ウェッジ2014/③『新芭蕉俳句大成』明治書院p1075

掲出句の「猫山」は、会津の磐梯山の西に位置する猫魔ケ岳であると考えられている。句意は猫山の猫が舐めていったのか、ところどころ雪が溶けたところがある。ということである。この句に対して「貞門風の言葉の洒落に過ぎない」(山本健吉:『芭蕉全発句』)という批評、さらには「山全体が猫と化して、自分の身体を舐めているというイメージは、大胆で、自由であり、斬新である。アニメーションのような幻想を見せてくれているとも言える。(小澤實:本書)。この辺りがこの句の読みのわかれるところであろう。

わたしは、ここでの評価を断ずることは避けるが、この辺りの芭蕉の詠み方として実際に現地を訪れて詠んだのではなく想像によって詠んでいることに、この作品が芭蕉の作句における転換点に立った作品であることを肝に銘じたい。

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2021/11/13


『芭蕉の風景』(下) 小澤實『ひととき2014・11』ウエッジブックス
世にふるもさらに宗祇のやどり哉 芭蕉

ギャラリー
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