Ryo Daimonji Blog 『名句の所以』(著:小澤實p191 毎日新聞出版)より
洗面器の底に西瓜の種ひとつ 篠崎央子
遠い俳句初学の頃、俳句では、老農の腰はいつも曲がっており、柿の木にはいつも柿の実はひとつ下がっていなければならない、と言った固定観念に最も注意しなければならない、と習った。この句下五がその「種ひとつ」である。
この作者がそう言った俳句のタブーを知らないはずはない。家族で食べた西瓜の種捨て用に洗面器を使うことは、飛び散りを防ぐにはとても便利である。その何の変哲もない洗面器に、その今しがた食べた種がひとつだけ残っていたのだ。それを作者は常套表現を恐れずやったのだ。決断の写生の名句と私は理解した。